87:アキ2013/03/24(日) 00:29:03.15 ID:pmN8elV80
次の日学校へ行くのは気が重かった。
あの後の雪と夏を想像するだけで、ひどくムネが痛んだ。
重たい体を引きずるように教室に入ったら、雪はまだ来ていなかった。
その日雪は学校を休んだ。

http://hayabusa3.2ch.net/test/read.cgi/news4viptasu/1364037285/
87:アキ2013/03/24(日) 00:29:03.15 ID:pmN8elV80
昼休みになった。
夏達とご飯を食べる曜日だったけれど、どうすればいいのか解らず悩んでいた。
けれど夏が迎えに来てくれた。
後ろには相変わらずヌボーっとしたハルが立っていた。
いつもと変わらない笑顔で「いくぞ」って夏が言って、なんだかすごくホッとした。
三人で定位置でお弁当広げた時も、気まずさを振り払うように夏が喋った。
でもそれも尽きて、三人に沈黙が走った。

88:アキ2013/03/24(日) 00:35:53.86 ID:pmN8elV80
「昨日、あの後、雪どうだった?」最初に口を開いたのは私だった。
「駅で別れたから、その後は解らんけど、それまでは泣いとった」
夏がぽつりと呟いた。
ハルは黙って箸を進めてた。
そんなハルと夏に、
「ごめん、昨日ハルの教室行ったけど、ハル帰ってた」と謝った。
ハルが「教室、来てくれたん?」って、やっと顔を上げた。
「うん」って答えると、そっかぁって少しハルの表情が和らいだ。
そんなハルを見て、夏が言った。
「今日こそは二人で帰ったら?」
訳が分からなくて、「え、なんで」と聞く私に、「二人お似合いやし」と笑う夏。
あまりに衝撃が大きくて、黙り込んでしまった。

91:アキ2013/03/24(日) 00:44:32.89 ID:pmN8elV80
「な、ハル」と笑う夏に、「いや、二人じゃなくていいよ」と返すハル。
「夏はなんでそういうこと言うん?」
喉カラッカラみたいな声で訊ねた。
「二人が上手くいったらいいなぁーと思うし」
夏が笑顔でそう発した時、
もう苦しくてしょうがなかったけど、声を振り絞って言った。
「ハルには好きな人がいるんやろ、勝手なこと言わんでよ」
そして一人で教室に戻った。
やっぱり上手くいかなくなってしまったと、めそめそ嘆きながら。

92:アキ2013/03/24(日) 00:46:32.38 ID:pmN8elV80
次の日、雪は登校してきた。
明るく振る舞う雪に、かける言葉が見つからなかった。
そんな雰囲気を察したのか「もうハル君なんかどうでもいいー」と、
雪はニコニコ笑顔で言い放った。
だから今まで通り、四人でやっていこうね
雪は笑顔でそう言った。
「昔みたいに戻れるかな」と聞く私に、「努力する」と笑った雪。
雪は強い子だったね。

97:アキ2013/03/24(日) 00:51:49.93 ID:pmN8elV80
そして四人で顔を合わせて、雪が笑顔で場を盛り上げた。
ハルも私もホッとして、ぬるま湯に身を委ねていた。
夏だけは、雪のことを真っ直ぐ見ていた。

それから夏は、より甲斐甲斐しく雪を気遣い始めた。
誰が見ても、夏が雪を好きなのは明確だった。
夏は隠そうともせずに、毎日雪にアタックしていた。
けれど「好き」とは伝えていないようだった。

98:アキ2013/03/24(日) 00:56:04.98 ID:pmN8elV80
告白されなきゃ断りようがない、雪がぽつりとそう呟いた。
確かにその通りで、なかなか変化しない関係性に、
私の気持ちは宙ぶらりんになっていた。
夏が告白したと聞いたらショックだろうけど、
夏が告白しなければ夏は雪を諦めない。
何度か告白をけしかけたこともあった。
でも夏は笑ってるだけだった。

クリスマスは四人で過ごした。
カラオケに行って、お世辞でも上手とは言えない夏と雪の歌を聞いて笑ってた。
呑気に笑っていられたのは、この時までだった。

101:アキ2013/03/24(日) 01:01:41.16 ID:pmN8elV80
少し街をぶらついて、解散になった。
夏と二人で同じ駅に帰れることが嬉しかった。
でも夏は、電車に乗り込む前に行ってしまった。
雪のところへ。
「俺やっぱ雪ちゃん送ってくわ」って、走って行ってしまった。
一人、満員電車に揺られて、
クリスマスで浮き足立ってる街を見下ろしながら帰った。
いやな予感がしていた。

102:アキ2013/03/24(日) 01:08:03.57 ID:pmN8elV80
次の日、夏が珍しく電話をかけてきた。
受話器の向こうで夏が興奮していて、もうなんとなく予想はついていた。
雪と上手くいったんだろう。
「雪ちゃんとチューした!!」
夏の言葉は私の予想の一寸先進んでいた。
ムネが大きく跳ねた。

「告白したん?」と力なく訊ねる私に、
「いや、正式にはまだ」と彼は言った。
好きだと伝えけど、付き合ってくれとは言っていない。
「でも確かにあの瞬間、雪ちゃんと心が通じ合ってチューした!」
受話器の向こうで夏がどんな顔してた容易に想像が付く。
私は「うん、うん、へぇ」を繰り返すロボットになっていた。

103:名も無き被検体774号+2013/03/24(日) 01:10:06.19 ID:qef5VNgf0
うわぁーツラい

104:名も無き被検体774号+2013/03/24(日) 01:10:26.87 ID:UpItWECJ0
ムネが張り裂けてしまうね

105:アキ2013/03/24(日) 01:16:57.36 ID:pmN8elV80
最悪の冬休みだった。
廃人のように横たわる毎日だった。
雪からの連絡は返せなかった。
けれど「話がしたい」、雪からのその文面を見て、話さなきゃ、と思った。

そして私の地元に雪がやってきた。
二人で無言で公園へ向かって、その空気のままベンチに座った。
雪がぶるぶる震えながら「ごめんね」と泣いた。
「雪は、私が夏のことを好きなの、とっくに気付いてたんやね」
私がそう言うと、雪は首を縦に振った。
「でも、雪も夏を好きになっちゃったんやね」
私のその言葉に雪はワッと泣き出した。

107:アキ2013/03/24(日) 01:25:09.35 ID:pmN8elV80
「ハル君のことがあって、毎日泣いてて
 でもみんなが心配するから、学校では平気なふりしてて
 そんなとき、夏君が毎日メール送ってくれてて
 大丈夫?とか、今日ハルの前で頑張ってたね、とか、
 全部気付いてくれてて
 沢山励ましてくれて気遣ってくれて、褒めてくれて
 気付いたら、少しずつ夏君の時間が増えてて
 でもまだハル君のこと気になってて、
 クリスマスの日も本当に辛くて
 みんなと別れて泣きそうになりながら帰ってたら、
 夏君が追いかけてきてくれた
 嬉しくて、ありがとうって思って
 
 ごめん…」

雪は言葉を詰まらせながらそう言った。

私が、気丈に振る舞う雪に気付かず
現状に甘えてぬるま湯に浸かってる間に、
夏だけは気付いたんだ。
それはそうだろう。
夏は誰よりも雪を見つめていた。

109:アキ2013/03/24(日) 01:30:50.08 ID:pmN8elV80
「ごめん」と繰り返す雪に、返事はできなかった。
だって雪は言ったじゃないか。
「断るからね」って。
ほだされないからねってことじゃなかったの?
裏切り者。
私の方が夏をずっと好きなのに。

でも、私にそんなこと言う権利ある?
人の気持ちなんて変わるのが当たり前だし、夏は私の私有物じゃない。
ただ私が夏を好きだと言うだけで、人の恋愛を制限していいはずがない。
そして何より、気丈に振る舞う親友に気付いてあげられなかった。
それが全ての原因。
私が気付いてあげられたら、こんなに雪を泣かせてしまうことも、
こんなことになって私が泣くこともなかったかもしれない。
そもそも、いつも「私なんか」って自分を卑下して、
私はスタートラインにすら立っていなかった。
夏に好きになって貰う努力を、何もしていなかった。
自分の気持ちから逃げて、全て人任せ。
そんなの、私が選ばれないのは当然のことだった。

111:名も無き被検体774号+2013/03/24(日) 01:32:25.25 ID:yjd4bIAsO
切ないな

112:アキ2013/03/24(日) 01:35:43.78 ID:pmN8elV80
「雪、夏は、初めて雪と会話したあの日から、
 ずっと雪のことが好きやったんよ
 夏の気持ちが報われて良かった」
恥ずかしげもなくぼろぼろ泣きながら、「夏をよろしくね」って言った。

「やだ、私アキの方が大事やもん、夏とは付き合わない」
そう泣きじゃくる雪に、
「夏と雪は好き同士なのに、何言ってるん?
 そんな気の使われ方嬉しくないし」
でも、でも、と続ける雪に、私は最大級かっこつけて言ったんだ。
「私のことが大事なら、私の大事な夏を大事にしてやってよ」

やっと雪は、うんって言ってくれた。

113:名も無き被検体774号+2013/03/24(日) 01:37:33.74 ID:SZ7vCsTx0
アキかっけぇ

114:アキ2013/03/24(日) 01:39:04.36 ID:pmN8elV80
こうなったら、私の片思いの終わりを見届けよう。
「雪、夏呼べば?地元やからすぐ来るよ」
私のその申し出に、雪は従った。
すぐに夏は飛んできて、ぼろぼろに泣いてる雪を気遣ってた。
やっぱり私のことは視界に入ってないな。
そう思うと吹っ切れるような気がした。
「今日話したことは、夏には内緒ね」って雪に伝えて、私は一人帰った。
でも、やっぱり往生際の悪い私は傷ついていた。

115:アキ2013/03/24(日) 01:48:51.03 ID:pmN8elV80
三学期が始まった。
夏と雪は付き合い始めた。
噂は瞬く間に学年中に広がり、夏は可愛い彼女にご満悦だった。
クラスメートに「夏はアキと付き合ってるかと思ってた」って突っ込まれて、
今度は私が気持ち良く否定する番だった。

でも正直、うまくいってはなかった。
あの日あんなにカッコつけて、上手く話をまとめたつもりになってたのに、
私とアキの間にはうっすらわだかまりが出来ていた。

116:アキ2013/03/24(日) 01:52:02.40 ID:pmN8elV80
アキは頑張って修復しようとしてくれてた。
でも私が無理だった。
仲のいい夏と雪を見ていると、心がささくれ立って、
四人でいて心から笑えたことなんてなかった。
あのハルが何度も気分転換に誘ってくれたけど、全部断った。
そんなことをしていると、夏が切れた。
いつものようにみんなでお弁当を広げている時、
私の白々しさに、夏が怒鳴った。
「お前何なん!?何が不満なん!?」
 どれだけみんながお前に気使ってると思ってんだよ!」

夏には解らないよ。
夏には言われたくないよ。
そう思っても口には出せない私は、ただ黙っていた。

117:アキ2013/03/24(日) 01:53:33.54 ID:pmN8elV80
>>116間違えた
一行目、×アキ*雪
ややこい(`・ω・´)

118:名も無き被検体774号+2013/03/24(日) 01:56:44.20 ID:Jcb8Y3Io0
>私とアキの間にはうっすらわだかまりが出来ていた。

これも間違いだな

122:アキ2013/03/24(日) 01:58:58.56 ID:pmN8elV80
季節がゲシュタルト崩壊

>>118あ、やっぱ?焦って書くもんちゃうな(´・ω・`)

123:名も無き被検体774号+2013/03/24(日) 02:00:36.54 ID:Jcb8Y3Io0
>>122
ゆっくりでいいからな

126:アキ2013/03/24(日) 02:08:04.50 ID:pmN8elV80
雪が間に入った。
「ごめんね、私が恩を仇で返すようなことをしたんよ」
ぼろぼろ泣きながら、雪が言った。
恩を仇で返す?
何を言ってるんだろう。
身に覚えがなかった。

「私、一年の時から、アキのこと知ってた
 その時私、クラスの女子からハブられてて
 その日も耐えれなくなって、
 トイレの個室に逃げ込んで、一人で泣いてた
 そしたら、その女子達、トイレまで追いかけてきて
 私に聞こえるように、キモイとか、死ねばいいのにとか
 そしたら、隣の個室から誰か出て行って
 隣の個室の子、ずっと泣いてるんだけど、って
 ムナ糞悪いことやめろよ、って
 親の顔が見たいわ、って、言ってくれて 
 アキが出てった後、女子達がアキの名前言ってるの聞いて
 ずっと感謝してた
 凄く嬉しかったのに
 恩を返さなきゃってずっと思ってたのに
 私が、そんなアキを裏切った
 ごめんね、アキ、ごめんね」

127:アキ2013/03/24(日) 02:12:40.66 ID:pmN8elV80
そう言えばそんなこともあったな、と思った。
その後、私その女子達から陰口叩かれてたみたいだけど、
まぁ有り難いことに私への被害はそれくらいだった。
そうか、あれは雪だったのか。
「アキが優しいこと知ってるから、仲良くなりたかった」ってのは、これだったんだね。

129:アキ2013/03/24(日) 02:24:11.31 ID:pmN8elV80
そんな中、夏が笑った。
「何や、アキお前、めっちゃかっこいーな!
 お前らしいわw」
大好きだったあの笑顔で、夏に褒めてもらえた。
何だかむず痒かったけど、嬉しかった。
誇らしかった。
「かっこいー」って言ってもらえた。
お前らしいって褒めてもらえた。
そうか、夏の目に映ってる私は、そんな女だったんだ。
なんかもう、充分だな、うん。よく解らないけど。
この瞬間、パァって気分が晴れたのを、今でも覚えてるんだ。

「でも裏切ったって、何したん?」と話を続けようとする夏に、私は謝った。
アキにも、春にも謝った。
「ごめん、もう大丈夫!」って。
だって今なら心から笑えそうだから。
もういいんだ、もういい。
終わったんだ、私の片思いは。

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