74:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/13(日) 23:37:13
年明け。
いよいよ危険だと感じた俺は大きな病院へと足を運んだ。
様々な検査で一日が暮れた。
検査のひとつにルームランナーみたいな機械で走らされるものがあった。
俺は検査の途中で氏んじゃうんじゃないかと思った。
いよいよ危険だと感じた俺は大きな病院へと足を運んだ。
様々な検査で一日が暮れた。
検査のひとつにルームランナーみたいな機械で走らされるものがあった。
俺は検査の途中で氏んじゃうんじゃないかと思った。
http://love3.2ch.net/test/read.cgi/lovesaloon/1131655290/
74:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/13(日) 23:37:13
数日後、診断結果を説明しながら若い医者は言った。
「危なかったですよ」
めでたく手術入院が決定した。
入院の前日、俺はお父さんにお願いした。
「きっと気を遣うだろうから親戚の人たちには言わないで」
お父さんは約束してくれた。
病状は深刻だったが手術そのものはあまり難しくはないらしく、1週間ほどで退院できるとのことだった。
手術は3日後で間があったが、友人や同僚が本やらうなぎパイやらを見舞いの品に携えて押し寄せたので、退屈はしなかった。
だがそこに期待した顔はなかった。
約束守り過ぎですよ、お父さん。ちょっとそう思った。
「危なかったですよ」
めでたく手術入院が決定した。
入院の前日、俺はお父さんにお願いした。
「きっと気を遣うだろうから親戚の人たちには言わないで」
お父さんは約束してくれた。
病状は深刻だったが手術そのものはあまり難しくはないらしく、1週間ほどで退院できるとのことだった。
手術は3日後で間があったが、友人や同僚が本やらうなぎパイやらを見舞いの品に携えて押し寄せたので、退屈はしなかった。
だがそこに期待した顔はなかった。
約束守り過ぎですよ、お父さん。ちょっとそう思った。
75:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/13(日) 23:39:39
手術方法は胸をメスでかっさばいて…というものではなく、カテーテルという方法だった。
足の付け根から極細の電熱線を血管伝いに心臓まで通し、心臓に散らばった不必要な電気信号発信点を電気で焼く、というものだ。
足の付け根って…えっ、股間!?部分麻酔をするから痛みはないですよと医者は言ったが、いや、そうじゃなくて。…ということは、剃るんでしょ…。
屈辱的なプレイを経て手術が始まった。
足の付け根から極細の電熱線を血管伝いに心臓まで通し、心臓に散らばった不必要な電気信号発信点を電気で焼く、というものだ。
足の付け根って…えっ、股間!?部分麻酔をするから痛みはないですよと医者は言ったが、いや、そうじゃなくて。…ということは、剃るんでしょ…。
屈辱的なプレイを経て手術が始まった。
76:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/13(日) 23:41:45
手術はつつがなく…というわけにはいかなかった。
まず尿道に通されていたビニールチューブがはずれ、俺は尿まみれで手術を受け続けた。
1時間ほどで終わると言われていたので我慢していたが、2時間経ってもまだ終わる気配がない。
暇だから寝ちゃおうかと思ったが医者が寝るなと注意する。
もっとも寝ようにも手術台の横のモニターには俺の心臓が映し出されていて、蠢くその心臓に無数の電線が絡み付いた不気味な映像が、俺の眠気を木っ端微塵にした。
手術は難航している。どうやら予想を上回る数の発信点が、後から後から現れるらしい。
それらを電気で焼くたびに、じわっと胸が熱くなる。もう発信点がないかどうかを調べるために、わざと心臓マッサージで鼓動を激しくして不整脈を起こさせる。
それが延々繰り返される。
仕舞いには胸の熱が耐えられない苦痛を伴ってきた。先生、ギブです。
「じゃあ、全身麻酔に切り替えますね。目をつぶって数を数えて〜」
ガスを吸わされながら「端っからこうしろよ」と毒づきつつ、俺は10まで数えないうちに眠りに落ちた。
まず尿道に通されていたビニールチューブがはずれ、俺は尿まみれで手術を受け続けた。
1時間ほどで終わると言われていたので我慢していたが、2時間経ってもまだ終わる気配がない。
暇だから寝ちゃおうかと思ったが医者が寝るなと注意する。
もっとも寝ようにも手術台の横のモニターには俺の心臓が映し出されていて、蠢くその心臓に無数の電線が絡み付いた不気味な映像が、俺の眠気を木っ端微塵にした。
手術は難航している。どうやら予想を上回る数の発信点が、後から後から現れるらしい。
それらを電気で焼くたびに、じわっと胸が熱くなる。もう発信点がないかどうかを調べるために、わざと心臓マッサージで鼓動を激しくして不整脈を起こさせる。
それが延々繰り返される。
仕舞いには胸の熱が耐えられない苦痛を伴ってきた。先生、ギブです。
「じゃあ、全身麻酔に切り替えますね。目をつぶって数を数えて〜」
ガスを吸わされながら「端っからこうしろよ」と毒づきつつ、俺は10まで数えないうちに眠りに落ちた。
77:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/13(日) 23:42:45
目覚めたら夜だった。結局手術は7時間かかったらしい。
身体は動かしてはいけないが食事は構わないということで、手術のために昨晩から絶食させられていた俺は3食平らげた。
付き添いの母が俺の口に食事を運びながら言った。
「よかった」
俺は食事に夢中で母の顔は見ていなかった。
身体は動かしてはいけないが食事は構わないということで、手術のために昨晩から絶食させられていた俺は3食平らげた。
付き添いの母が俺の口に食事を運びながら言った。
「よかった」
俺は食事に夢中で母の顔は見ていなかった。
78:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/13(日) 23:44:02
退院の前日、俺は喫煙所で予想もしていない人と会った。
田中一族の肇さんだった。
お父さんの従兄にあたる人だ。
「びっくりしたな〜。健吾君が入院してるなんて聞いてなかったぞ?」
「ええ。大袈裟にしたくなかったんで、お父さんに口止めしてたんです。それより肇さんこそ、入院してるなんて知りませんでしたよ?」
「恥ずかしくてあんまり公言したくない病気だからね〜私も家族に口止めしてたんだよ」
肇さんは泌尿器科に掛かっていた。
「肇さん、俺のこと黙っててくださいね、みなさんには」
「わかったよ〜私のことも内緒だぞ?」
明くる日俺は無事退院し、長年の厄介者と決別した。
田中一族の肇さんだった。
お父さんの従兄にあたる人だ。
「びっくりしたな〜。健吾君が入院してるなんて聞いてなかったぞ?」
「ええ。大袈裟にしたくなかったんで、お父さんに口止めしてたんです。それより肇さんこそ、入院してるなんて知りませんでしたよ?」
「恥ずかしくてあんまり公言したくない病気だからね〜私も家族に口止めしてたんだよ」
肇さんは泌尿器科に掛かっていた。
「肇さん、俺のこと黙っててくださいね、みなさんには」
「わかったよ〜私のことも内緒だぞ?」
明くる日俺は無事退院し、長年の厄介者と決別した。
80:恋する名無しさん 2005/11/13(日) 23:45:17
>長年の厄介者
病気のこと?
病気のこと?
95:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/16(水) 07:06:00
>>80
そうです。病気のことです。
そうです。病気のことです。
81:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/13(日) 23:45:27
自分は健康だと自覚できるのは本当に素晴らしいことだと思う。
物事を見る目が変わる。
いろんなことに感謝する。
気持ちも前向きになる。
実際、会社の上司や同僚、お父さんや母から言われた。
「なんだか雰囲気変わったねぇ。角がとれたというか、いい感じだよ」
そんなに以前の俺はツンケンピリピリしたヤツに見られていたのかとちょっとショックだったが、半面、嬉しくもあった。
それからの毎日、すがすがしい気持ちで生活できた俺は、これなら恵子ちゃんのことを忘れられると確信した。
新しい恋を探すぞ。
物事を見る目が変わる。
いろんなことに感謝する。
気持ちも前向きになる。
実際、会社の上司や同僚、お父さんや母から言われた。
「なんだか雰囲気変わったねぇ。角がとれたというか、いい感じだよ」
そんなに以前の俺はツンケンピリピリしたヤツに見られていたのかとちょっとショックだったが、半面、嬉しくもあった。
それからの毎日、すがすがしい気持ちで生活できた俺は、これなら恵子ちゃんのことを忘れられると確信した。
新しい恋を探すぞ。
82:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/13(日) 23:47:54
退院から一ヶ月。
週末、いつものように夕食をごちそうになりに太田家を訪れた俺はドッキリとした。
恵子ちゃんがいた。
家も近いから恵子ちゃんも俺同様、太田家にちょくちょく顔を出していたので別段びっくりすることではない。
だが恵子ちゃんを忘れようと決めた日から、恵子ちゃんが太田家に来る日は避けてきていた。
週末、いつものように夕食をごちそうになりに太田家を訪れた俺はドッキリとした。
恵子ちゃんがいた。
家も近いから恵子ちゃんも俺同様、太田家にちょくちょく顔を出していたので別段びっくりすることではない。
だが恵子ちゃんを忘れようと決めた日から、恵子ちゃんが太田家に来る日は避けてきていた。
83:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/13(日) 23:49:46
久しぶり〜と変わらぬ態度の彼女に俺も平静を装う。
意識しつつも酒が入れば酔いも手伝い、次第にドキドキ感はなくなっていった。
楽しい宴が進行していく。
酒を噴出しそうになったのはそれからまもなくの彼女の一言だった。
「そういえば健吾君、入院してたんだって?」
んなっ!?なんで知ってんの!?
俺は家族の顔を見回した。だが家族もキョトンとしている。
「肇さんに聞いたの。なんで教えてくれなかったの〜。水くさいな〜みんな」
…肇さぁぁぁぁん!
「い、いやぁあんまり大袈裟にしちゃうとさ、ほら、アレだよ。 俺って人気者じゃん?田中一族が大挙して見舞いに来ちゃったら病院に迷惑かけちゃうしさー」
「なるほど〜、ってオイ!頭は治してもらわなかったんかいっ」
皆、俺と恵子ちゃんの漫才に笑った。ふええ、焦ったぜ。
意識しつつも酒が入れば酔いも手伝い、次第にドキドキ感はなくなっていった。
楽しい宴が進行していく。
酒を噴出しそうになったのはそれからまもなくの彼女の一言だった。
「そういえば健吾君、入院してたんだって?」
んなっ!?なんで知ってんの!?
俺は家族の顔を見回した。だが家族もキョトンとしている。
「肇さんに聞いたの。なんで教えてくれなかったの〜。水くさいな〜みんな」
…肇さぁぁぁぁん!
「い、いやぁあんまり大袈裟にしちゃうとさ、ほら、アレだよ。 俺って人気者じゃん?田中一族が大挙して見舞いに来ちゃったら病院に迷惑かけちゃうしさー」
「なるほど〜、ってオイ!頭は治してもらわなかったんかいっ」
皆、俺と恵子ちゃんの漫才に笑った。ふええ、焦ったぜ。
84:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/13(日) 23:50:31
宴も終わり、みんなで後片付けが始まった時、
ふと俺と恵子ちゃんは居間でふたりきりになった。
ほろ酔い気分でおどけている俺に、ツツツと恵子ちゃんが寄ってきた。
「なんで言ってくれなかったの?」
軽く袖をひっぱられた俺は、口をあんぐりとしたまま呆けた。
ふと俺と恵子ちゃんは居間でふたりきりになった。
ほろ酔い気分でおどけている俺に、ツツツと恵子ちゃんが寄ってきた。
「なんで言ってくれなかったの?」
軽く袖をひっぱられた俺は、口をあんぐりとしたまま呆けた。
94:恋する名無しさん 2005/11/15(火) 17:28:13
84を読むと、恵子ちゃんは確実に1◆さんに気がある、(あった!?)と
思うのだが?
>>1を読むと気が重い。。orz
思うのだが?
>>1を読むと気が重い。。orz
93:恋する名無しさん 2005/11/15(火) 01:02:32
とりあえず、いとこは結婚できるぞ。お勧めはできない。
97:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/16(水) 07:10:12
アパートまで恵子ちゃんが車で送ってくれた。
なんだか車内の空気が重く感じる。
「たかだか1週間の入院だったから、あんまり話を広めたくなかったんだよ。ただそれだけ」
なんだコレ。これじゃ彼氏が彼女に言い訳してるみたいじゃないか。
「ふーん」
そう言ったきり彼女は黙っていた。
なんだか車内の空気が重く感じる。
「たかだか1週間の入院だったから、あんまり話を広めたくなかったんだよ。ただそれだけ」
なんだコレ。これじゃ彼氏が彼女に言い訳してるみたいじゃないか。
「ふーん」
そう言ったきり彼女は黙っていた。
98:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/16(水) 07:10:58
翌日、会社帰りのバスの中で昨日の恵子ちゃんの態度を考えてみた。
あれは…そういうことなんだろうか?
彼女も俺に好意(異性としての)を持ってくれてると?
おそらく車窓に映っている俺の顔はニヤけていたに違いない。
一瞬、親父のことも忘れていた。
だがすぐに別の考えが頭を占める。
あれだけ仲良く飲み歩いた仲だ。
本当に言葉通り、単に水臭いヤツと思われているだけなんじゃないかと。
バスを降りた時には、俺の頭は結論に達していた。
やはり恵子ちゃんのことは忘れよう。
あれは…そういうことなんだろうか?
彼女も俺に好意(異性としての)を持ってくれてると?
おそらく車窓に映っている俺の顔はニヤけていたに違いない。
一瞬、親父のことも忘れていた。
だがすぐに別の考えが頭を占める。
あれだけ仲良く飲み歩いた仲だ。
本当に言葉通り、単に水臭いヤツと思われているだけなんじゃないかと。
バスを降りた時には、俺の頭は結論に達していた。
やはり恵子ちゃんのことは忘れよう。
99:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/16(水) 07:12:28
季節が夏を迎えた頃、他県に嫁いでいる妹が家族と共に里帰りした。
妹たちは帰ってきた際、いつも太田家に滞在する。
親父のアパートは1Rだったため、子供がふたりいる妹たちが寝泊りするには狭すぎた。
親父も納得していた。悲しく寂しく思っていたとは思う。
お父さんは妹たちも暖かく迎えてくれていた。
妹やその旦那を娘・息子と接してくれ、子供たち(姉妹)も孫だと喜んであやしてくれた。
俺はその光景を見るにつけ、親父の丸まった後姿を思い浮かべた。
妹たちは帰ってきた際、いつも太田家に滞在する。
親父のアパートは1Rだったため、子供がふたりいる妹たちが寝泊りするには狭すぎた。
親父も納得していた。悲しく寂しく思っていたとは思う。
お父さんは妹たちも暖かく迎えてくれていた。
妹やその旦那を娘・息子と接してくれ、子供たち(姉妹)も孫だと喜んであやしてくれた。
俺はその光景を見るにつけ、親父の丸まった後姿を思い浮かべた。
100:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/16(水) 07:13:35
妹たちが去る前日、みんなで外で食事をすることになった。
俺、お父さんと母、義弟と義妹、妹と旦那、姪っ子ふたり、大勢での食事。
絵に描いたような団欒を、俺はとても大切に感じていた。
なにが火種になったのかはよく憶えていない。些細なことだったと思う。
その食事の最中、俺と母は口論になった。
義弟や義妹、妹夫婦が母に味方する。お父さんは黙っていた。
母が言った。
「入院して変わったと思ってたのに。結局アンタの短気な性格は治ってないね。そんなんだから結婚相手にも逃げられるんだよ!」
カーッと熱くなった。
(そんなこと…!俺に言えるのかアンタは!!)
それまで母に抱いていた感情が爆発した。
俺、お父さんと母、義弟と義妹、妹と旦那、姪っ子ふたり、大勢での食事。
絵に描いたような団欒を、俺はとても大切に感じていた。
なにが火種になったのかはよく憶えていない。些細なことだったと思う。
その食事の最中、俺と母は口論になった。
義弟や義妹、妹夫婦が母に味方する。お父さんは黙っていた。
母が言った。
「入院して変わったと思ってたのに。結局アンタの短気な性格は治ってないね。そんなんだから結婚相手にも逃げられるんだよ!」
カーッと熱くなった。
(そんなこと…!俺に言えるのかアンタは!!)
それまで母に抱いていた感情が爆発した。
102:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/16(水) 07:15:52
数年前から俺は母に金を貸していた。
「旦那(お父さん)があまり家にお金を入れてくれなくて…」
母が俺に借金をお願いしてきたときの理由だ。
母は嫁いでからも働いていたし、お父さんは一流会社の重役で社会的地位のある人だったから、なぜ金に困るのかとはじめは思った。
しかし部下想いで面倒見の良いお父さんの金離れのよさは知っていたし、親戚が多い環境だから友好費も並々ならぬものがあると母に聞かされていたから、そういうものだろう、とその時の俺はそれ以上深く詮索せず金を貸した。
それ以降もちょくちょく金を貸し続けていたが、返済は滞り、ほとんど戻ってはこなかった。
しかし独身男の身軽さゆえにゆとりのあった俺は苦も無く金を工面してきた。
金に苦労してきた母だったから、なるべく負担を減らしてあげたいという気持ちもあった。
前の彼女と別れた後、母が言った。
「アンタが結婚してなくて助かった」
この人に人の心はあるのか、そう俺は思ったが口には出さなかった。
「旦那(お父さん)があまり家にお金を入れてくれなくて…」
母が俺に借金をお願いしてきたときの理由だ。
母は嫁いでからも働いていたし、お父さんは一流会社の重役で社会的地位のある人だったから、なぜ金に困るのかとはじめは思った。
しかし部下想いで面倒見の良いお父さんの金離れのよさは知っていたし、親戚が多い環境だから友好費も並々ならぬものがあると母に聞かされていたから、そういうものだろう、とその時の俺はそれ以上深く詮索せず金を貸した。
それ以降もちょくちょく金を貸し続けていたが、返済は滞り、ほとんど戻ってはこなかった。
しかし独身男の身軽さゆえにゆとりのあった俺は苦も無く金を工面してきた。
金に苦労してきた母だったから、なるべく負担を減らしてあげたいという気持ちもあった。
前の彼女と別れた後、母が言った。
「アンタが結婚してなくて助かった」
この人に人の心はあるのか、そう俺は思ったが口には出さなかった。
103:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/16(水) 07:17:08
そんな想いや、親父のこと、そしてなぜか恵子ちゃんのことまでが一度に噴出し、俺の心は煮えくり返った。
お父さんが引き止めるのも聞かず、俺は食事の席から飛び出した。
明くる日の晩、仕事帰りのお父さんが俺のアパートを訪ねてきた。
俺は家に上げようとはせず、玄関先でお父さんと相対した。
「いくら君が短気だったとしても、あんなことくらいであれほど君が怒るとは、私には思えない。なにか想うことがあるのなら話してくれないか?」
視界が滲んだが、俺はそっぽを向いて黙りこくった。
「…私の目を見ないんだね。わかった。帰るよ」
それから俺は太田家に寄り付かなくなった。
お父さんが引き止めるのも聞かず、俺は食事の席から飛び出した。
明くる日の晩、仕事帰りのお父さんが俺のアパートを訪ねてきた。
俺は家に上げようとはせず、玄関先でお父さんと相対した。
「いくら君が短気だったとしても、あんなことくらいであれほど君が怒るとは、私には思えない。なにか想うことがあるのなら話してくれないか?」
視界が滲んだが、俺はそっぽを向いて黙りこくった。
「…私の目を見ないんだね。わかった。帰るよ」
それから俺は太田家に寄り付かなくなった。
104:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/16(水) 07:18:13
秋、俺に転機が訪れた。
東京本社への転勤を言い渡されたのだ。
恵子ちゃんのことも、母のことも、全てを清算したい気持ちでいっぱいだった俺は、初めて体験することになる大都会での生活に希望を抱いた。
引越しまで一ヶ月となったある日、恵子ちゃんからメールがきた。
それは彼女が子供の頃から続けている書道の展覧会への誘いだった。
俺は仕事を理由にその誘いを断った。
「じゃあ、また今度ね」とメールが返ってくる。
これから先も「今度」はない、俺は思った。
東京本社への転勤を言い渡されたのだ。
恵子ちゃんのことも、母のことも、全てを清算したい気持ちでいっぱいだった俺は、初めて体験することになる大都会での生活に希望を抱いた。
引越しまで一ヶ月となったある日、恵子ちゃんからメールがきた。
それは彼女が子供の頃から続けている書道の展覧会への誘いだった。
俺は仕事を理由にその誘いを断った。
「じゃあ、また今度ね」とメールが返ってくる。
これから先も「今度」はない、俺は思った。
105:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/16(水) 07:19:28
日曜日。展覧会の最終日。
いつもなら昼過ぎまで寝ている俺がなぜか早くに目覚めた。
(今日が最終日だったな)
そう思うとソワソワしてきた。
夕方、とうとう我慢ができなくなった俺は展覧会場へと出かけた。
(どうせもうオサラバなんだ。作品を観ることぐらい問題ない)
自分に言い訳をしていた。
閉会まで30分と迫った会場へ着き、彼女の作品を探す。
…見つけた!
俺はてっきり莫山先生のようなワケのわからないミミズ文字を想像していたのだが、そこにあった彼女の作品は普通の人が読める字だった。
俺は目を見張った。
題材は工藤直子という詩人の「花」という詩。
わたしはわたしの人生から出ていくことはできない。
ならばここに花を植えよう。
帰りのバスの中で、俺は太田家のみんなが恋しくなって、途中下車した。
いつもなら昼過ぎまで寝ている俺がなぜか早くに目覚めた。
(今日が最終日だったな)
そう思うとソワソワしてきた。
夕方、とうとう我慢ができなくなった俺は展覧会場へと出かけた。
(どうせもうオサラバなんだ。作品を観ることぐらい問題ない)
自分に言い訳をしていた。
閉会まで30分と迫った会場へ着き、彼女の作品を探す。
…見つけた!
俺はてっきり莫山先生のようなワケのわからないミミズ文字を想像していたのだが、そこにあった彼女の作品は普通の人が読める字だった。
俺は目を見張った。
題材は工藤直子という詩人の「花」という詩。
わたしはわたしの人生から出ていくことはできない。
ならばここに花を植えよう。
帰りのバスの中で、俺は太田家のみんなが恋しくなって、途中下車した。
106:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/16(水) 07:20:35
太田家を訪ねた俺を、お父さんは黙って迎えてくれた。笑顔だった。
母は申し訳なさそうにモジモジとしていた。
俺はいつものように「ゴチになるぜ!」と母に笑いかけた。
母は泣き笑いのような表情で台所へと向かった。
食事になり、俺は転勤のことを話した。
みんなは一様に驚き、さみしがり、そして祝ってくれた。
もう二度と家族のことを切り捨てまいと、俺は心に誓った。
母は申し訳なさそうにモジモジとしていた。
俺はいつものように「ゴチになるぜ!」と母に笑いかけた。
母は泣き笑いのような表情で台所へと向かった。
食事になり、俺は転勤のことを話した。
みんなは一様に驚き、さみしがり、そして祝ってくれた。
もう二度と家族のことを切り捨てまいと、俺は心に誓った。
107:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/16(水) 07:21:30
その晩、俺は恵子ちゃんに電話をした。
気持ちを伝えることはやはり出来ないが、お別れの言葉だけは言いたい。
感謝の言葉も言いたかった。
しかし「さよなら」は言えても、
「ありがとう」は恥ずかしくて言えなかった。
恵子ちゃんは「いってらっしゃい」と言ってくれた。
これで本当に終わったのだと、俺は思った。
気持ちを伝えることはやはり出来ないが、お別れの言葉だけは言いたい。
感謝の言葉も言いたかった。
しかし「さよなら」は言えても、
「ありがとう」は恥ずかしくて言えなかった。
恵子ちゃんは「いってらっしゃい」と言ってくれた。
これで本当に終わったのだと、俺は思った。
112:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/17(木) 05:04:06
それから一週間後。
俺は親父に電話し、食事に誘い出した。
すでに転勤のことは話していたので、やけに親父が寂しそうに見えた。
特に話すこともなかったのだが、なんだか別れ難かった。
親父はこれからの俺の生活に、
ただ「がんばれ、がんばれ」とだけ言い続けた。
別れ際、親父が祝儀袋を俺の手に握らせた。
掴んだだけで中身の厚さがわかった。
当時、親父は長年勤めていた建設会社を辞め、フリーの大工(変な言い方だが)として
全国を駆け回っていた。何人か若い人間も雇っていた。
決して生活は楽じゃなかっただろう。
俺は黙って受け取った。
俺は親父に電話し、食事に誘い出した。
すでに転勤のことは話していたので、やけに親父が寂しそうに見えた。
特に話すこともなかったのだが、なんだか別れ難かった。
親父はこれからの俺の生活に、
ただ「がんばれ、がんばれ」とだけ言い続けた。
別れ際、親父が祝儀袋を俺の手に握らせた。
掴んだだけで中身の厚さがわかった。
当時、親父は長年勤めていた建設会社を辞め、フリーの大工(変な言い方だが)として
全国を駆け回っていた。何人か若い人間も雇っていた。
決して生活は楽じゃなかっただろう。
俺は黙って受け取った。
113:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/17(木) 05:05:26
転勤2日前、会社の同僚や上司、取引先の人たちが壮行会を開いてくれた。
会には50人もの人たちが出席してくれ、俺はひとりひとりへの挨拶に追われた。
一通り挨拶も終わった頃、俺は皆の目を盗んで店の外に出、タバコに火をつけた。
そこへ女性がひとり近づいてきた。
取引先の秘書、野田 芽衣子さんだった。
取引先の窓口だった彼女とは仕事での付き合いも深く、また会社同士の飲み会でもよく顔を合わせていた。
「大変ですね」
「ええ。でもこれが最後だから」
「この後、2次会も行くんですか?」
「アイツら(同僚)帰してくれませんよ(笑)」
「私もお邪魔していいですか?」
「もちろん。アイツら喜びますよ」
彼女はウチの会社でも評判の美人で、内外問わず狙っている者も多かった。
それに大抵彼女は、こういった会では一次会だけで帰ってしまう人だったので、彼女の参加表明に俺は満更でもなかった。
会には50人もの人たちが出席してくれ、俺はひとりひとりへの挨拶に追われた。
一通り挨拶も終わった頃、俺は皆の目を盗んで店の外に出、タバコに火をつけた。
そこへ女性がひとり近づいてきた。
取引先の秘書、野田 芽衣子さんだった。
取引先の窓口だった彼女とは仕事での付き合いも深く、また会社同士の飲み会でもよく顔を合わせていた。
「大変ですね」
「ええ。でもこれが最後だから」
「この後、2次会も行くんですか?」
「アイツら(同僚)帰してくれませんよ(笑)」
「私もお邪魔していいですか?」
「もちろん。アイツら喜びますよ」
彼女はウチの会社でも評判の美人で、内外問わず狙っている者も多かった。
それに大抵彼女は、こういった会では一次会だけで帰ってしまう人だったので、彼女の参加表明に俺は満更でもなかった。
114:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/17(木) 05:07:04
2次会は同僚や取引先の若手だけでカラオケに行くことになった。
飲み会などでの俺はいつも盛り上げ役に徹していたので、この時も俺はカラオケ部屋を縦横に走り回ってはしゃぎまくった。
小一時間も経った頃、さすがに疲れて端っこの席に座り込んだ俺の隣に、芽衣子さんが移動してきた。
手にはジンライムのグラスを持っていた。
それを「はい」と俺に渡す。
「ああ、ありがたい。喉カラカラでした」
「少しゆっくりしたらいいじゃないですか」
「最後だと思うとどうにも落ち着かなくて。性格ですね」
「あんまり最後、最後って言わないでください」
いつもはおっとり喋る彼女の口調が変わった。
「今日は…今日ぐらいはちゃんとお話したいです」
飲み会などでの俺はいつも盛り上げ役に徹していたので、この時も俺はカラオケ部屋を縦横に走り回ってはしゃぎまくった。
小一時間も経った頃、さすがに疲れて端っこの席に座り込んだ俺の隣に、芽衣子さんが移動してきた。
手にはジンライムのグラスを持っていた。
それを「はい」と俺に渡す。
「ああ、ありがたい。喉カラカラでした」
「少しゆっくりしたらいいじゃないですか」
「最後だと思うとどうにも落ち着かなくて。性格ですね」
「あんまり最後、最後って言わないでください」
いつもはおっとり喋る彼女の口調が変わった。
「今日は…今日ぐらいはちゃんとお話したいです」
115:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/17(木) 05:07:53
一瞬ぼーっとなったが、俺はすぐに我に返って芽衣子さんを部屋の外に連れ出した。
「あの…俺と付き合いませんか?」
我ながらあまりにも唐突であっさりだったと思う。
でもこの雰囲気は…そういうことなんじゃないかと思った。
「はい」
彼女の返事もあっさりだった。
「あの…俺と付き合いませんか?」
我ながらあまりにも唐突であっさりだったと思う。
でもこの雰囲気は…そういうことなんじゃないかと思った。
「はい」
彼女の返事もあっさりだった。
116:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/17(木) 05:10:15
明くる日、とうとうこの土地での最後の日を迎えた。
別に感慨深いとかそういうのはなく、それよりも昨晩の芽衣子さんとのことが気に掛かった。
(俺…付き合おうって言ったんだよな?)
彼女の「はい」という返事も憶えていたが、なんだか夢見心地で自信が持てない。
昨日は結局3次会まで行ってしまったし、俺も相当に酔ってしまった。
芽衣子さんも最後まで付き合ってくれていたが、ベロンベロンになってた俺は携帯番号やメアドすら聞かず、彼女を送ることさえしていなかった。
午後、俺は芽衣子さんの会社に電話した。
「あの、もしもし大塚です。昨日は…」
「あ、ごめんなさい。今取り込み中なのでまた連絡します」
ええええええーっ!?やっぱアレ夢だったんか!?!?
30分後、会社にFAXがきた。芽衣子さんからだった。
「憶えててくれたんですね。よかったー!
私、夢でも見てたのかと思って心配してたんです。
携帯番号とアドレス書いておきます。後で連絡ください。
最後のお仕事、がんばってくださいね!!
芽衣子」
ほっとして、彼女の字がいとおしくなった。
始まりこそなんであれ、芽衣子さんはきっと俺の大切な人になると思った。
別に感慨深いとかそういうのはなく、それよりも昨晩の芽衣子さんとのことが気に掛かった。
(俺…付き合おうって言ったんだよな?)
彼女の「はい」という返事も憶えていたが、なんだか夢見心地で自信が持てない。
昨日は結局3次会まで行ってしまったし、俺も相当に酔ってしまった。
芽衣子さんも最後まで付き合ってくれていたが、ベロンベロンになってた俺は携帯番号やメアドすら聞かず、彼女を送ることさえしていなかった。
午後、俺は芽衣子さんの会社に電話した。
「あの、もしもし大塚です。昨日は…」
「あ、ごめんなさい。今取り込み中なのでまた連絡します」
ええええええーっ!?やっぱアレ夢だったんか!?!?
30分後、会社にFAXがきた。芽衣子さんからだった。
「憶えててくれたんですね。よかったー!
私、夢でも見てたのかと思って心配してたんです。
携帯番号とアドレス書いておきます。後で連絡ください。
最後のお仕事、がんばってくださいね!!
芽衣子」
ほっとして、彼女の字がいとおしくなった。
始まりこそなんであれ、芽衣子さんはきっと俺の大切な人になると思った。
117:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/17(木) 05:11:49
その日は残務整理だけだったので早目に会社を出た。
すぐに芽衣子さんの携帯に電話する。
(あ、いけね。彼女はまだ仕事中じゃないか)
あわてて切ろうとしたら芽衣子さんが出た。
「ごめんね。仕事中だったよね」
「いえいえ(笑)大塚さんは?」
「もうおしまい。会社出たところ」
「じゃあ…」
彼女の声が小声になった。
「私、早退しますね。ちょっと待っててください」
「あ、ちょっ、ちょっと!」
電話が切れた。
すぐに芽衣子さんの携帯に電話する。
(あ、いけね。彼女はまだ仕事中じゃないか)
あわてて切ろうとしたら芽衣子さんが出た。
「ごめんね。仕事中だったよね」
「いえいえ(笑)大塚さんは?」
「もうおしまい。会社出たところ」
「じゃあ…」
彼女の声が小声になった。
「私、早退しますね。ちょっと待っててください」
「あ、ちょっ、ちょっと!」
電話が切れた。
118:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/17(木) 05:12:57
30分後、喫茶店で芽衣子さんと会った。
「そんな無理することないのに…」
「いいえ!いいんです(笑)」
笑顔が可愛かった。
それから2時間あまり、色々なことを喋った。
これまで仕事上か飲み会でしか話す機会がなかったから新鮮だった。
俺は気になっていたことを聞いた。
「昨日は突然あんなこと言って…びっくりしたでしょ?」
「はい(笑)でも私も告白するつもりだったんです」
「そ、そうなの?」
「ええ(笑)でも大塚さん、みんなに囲まれててなかなかふたりになれなかったからもどかしかったです」
恥ずかしそうにしている彼女がなんとも可愛い。
久しぶりの感情だった。
「そんな無理することないのに…」
「いいえ!いいんです(笑)」
笑顔が可愛かった。
それから2時間あまり、色々なことを喋った。
これまで仕事上か飲み会でしか話す機会がなかったから新鮮だった。
俺は気になっていたことを聞いた。
「昨日は突然あんなこと言って…びっくりしたでしょ?」
「はい(笑)でも私も告白するつもりだったんです」
「そ、そうなの?」
「ええ(笑)でも大塚さん、みんなに囲まれててなかなかふたりになれなかったからもどかしかったです」
恥ずかしそうにしている彼女がなんとも可愛い。
久しぶりの感情だった。
119:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/17(木) 05:14:04
すでに家財道具は引越先に送っていたので、この日は太田家で最後の夜を過ごすことになっていた。
でも芽衣子さんともう少し一緒にいたい。彼女が俺の心を見透かすように言った。
「今日はもうお家に帰ってあげてください。これからも一緒でしょ?私たち」
たまらなくなって、彼女の手を握った。
「明日、見送りに行きますね」
彼女が握り返してきた。
でも芽衣子さんともう少し一緒にいたい。彼女が俺の心を見透かすように言った。
「今日はもうお家に帰ってあげてください。これからも一緒でしょ?私たち」
たまらなくなって、彼女の手を握った。
「明日、見送りに行きますね」
彼女が握り返してきた。
120:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/17(木) 05:15:01
翌朝、俺はお父さんの車に乗って駅に向かった。母たちも一緒だ。
と、お父さんの携帯に電話が掛かってきた。
お父さんの話しぶりで相手が誰だかわかった。
「恵子ちゃん…ですね」
「うん。これから健吾君の見送りに来るって」
芽衣子さんとの待ち合わせの時間までにはまだ間がある。
それに…大丈夫。俺にはもう芽衣子さんがいる。
すでに駅に着いていた恵子ちゃんと合流し、みんなで喫茶店に入った。
いつもだったらすぐに馬鹿騒ぎになる彼らも、この時は口数が少なかった。
笑顔で餞別をくれる彼ら。
その気持ちが伝わってきて、俺は胸がいっぱいになった。
と、お父さんの携帯に電話が掛かってきた。
お父さんの話しぶりで相手が誰だかわかった。
「恵子ちゃん…ですね」
「うん。これから健吾君の見送りに来るって」
芽衣子さんとの待ち合わせの時間までにはまだ間がある。
それに…大丈夫。俺にはもう芽衣子さんがいる。
すでに駅に着いていた恵子ちゃんと合流し、みんなで喫茶店に入った。
いつもだったらすぐに馬鹿騒ぎになる彼らも、この時は口数が少なかった。
笑顔で餞別をくれる彼ら。
その気持ちが伝わってきて、俺は胸がいっぱいになった。
121:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/17(木) 05:16:21
ふと喫茶店の窓がコンコンと鳴った。
!!
振り向くと芽衣子さんが笑顔で立っていた。
芽衣子さん、早い。
「だれ〜?」
母や義妹が冷やかしの視線を向ける。
「ん。今付き合ってる人」
「ひゅーひゅー」
義弟も冷やかす。古い表現だなオイ。
お父さんが窓越しに「おいでおいで」と芽衣子さんを手招いた。
小走りに芽衣子さんが店に入ってきた。
芽衣子さんをみんなに紹介し、みんなを芽衣子さんに紹介した。
さすがに一昨日から付き合い始めたとは言えなかった。
少しの間、芽衣子さんを交えて話をした。
「それじゃ、お邪魔にならない内に我々は帰りますか。元気でね、健吾君!」
恵子ちゃんが笑顔で俺の腕を叩いた。
!!
振り向くと芽衣子さんが笑顔で立っていた。
芽衣子さん、早い。
「だれ〜?」
母や義妹が冷やかしの視線を向ける。
「ん。今付き合ってる人」
「ひゅーひゅー」
義弟も冷やかす。古い表現だなオイ。
お父さんが窓越しに「おいでおいで」と芽衣子さんを手招いた。
小走りに芽衣子さんが店に入ってきた。
芽衣子さんをみんなに紹介し、みんなを芽衣子さんに紹介した。
さすがに一昨日から付き合い始めたとは言えなかった。
少しの間、芽衣子さんを交えて話をした。
「それじゃ、お邪魔にならない内に我々は帰りますか。元気でね、健吾君!」
恵子ちゃんが笑顔で俺の腕を叩いた。
122:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/17(木) 05:17:22
新幹線の発車時刻まではまだ時間があった。
俺と芽衣子さんはホームのベンチで手を繋ぎながら話をした。
「なるべくマメに帰ってくるよ」
「無理しないでね。遠距離だからって気負わないで。私は大丈夫!」
もっと早くこんな展開になってたらなぁ。行きたくないな、東京。
新幹線がホームに入ってきた。
手を放し、デッキから芽衣子さんを見つめる。
芽衣子さんが何か言いたそうにしていた。俺も…したかった。
ドアが閉まった。
俺はおどけて、窓越しに芽衣子さんに投げキッスを贈った。
ホントにやりゃよかったのに。馬鹿。
俺と芽衣子さんはホームのベンチで手を繋ぎながら話をした。
「なるべくマメに帰ってくるよ」
「無理しないでね。遠距離だからって気負わないで。私は大丈夫!」
もっと早くこんな展開になってたらなぁ。行きたくないな、東京。
新幹線がホームに入ってきた。
手を放し、デッキから芽衣子さんを見つめる。
芽衣子さんが何か言いたそうにしていた。俺も…したかった。
ドアが閉まった。
俺はおどけて、窓越しに芽衣子さんに投げキッスを贈った。
ホントにやりゃよかったのに。馬鹿。
123:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/17(木) 05:18:39
職場は東京だったが、俺は住まいを横浜に決めていた。
田舎モノの俺にいきなり東京暮らしはハードルが高いとビビッていたのと、俺の生まれは川崎市だったので生まれ故郷に近いところを選んだからだ。
しかし横浜もとんでもなく都会だった。
新しい職場での仕事は思ったよりもすんなりと入っていけた。
順調な滑り出しに心に余裕が持てた俺は、暇を見つけては色々な場所へと出かけ、遊び、観て、食べた。
田舎モノの俺にいきなり東京暮らしはハードルが高いとビビッていたのと、俺の生まれは川崎市だったので生まれ故郷に近いところを選んだからだ。
しかし横浜もとんでもなく都会だった。
新しい職場での仕事は思ったよりもすんなりと入っていけた。
順調な滑り出しに心に余裕が持てた俺は、暇を見つけては色々な場所へと出かけ、遊び、観て、食べた。
124:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/17(木) 05:20:10
そして東京に来て2週間後、俺は芽衣子さんに会いに地元に帰った。
さすがに早っ!とは思ったが、遠距離恋愛なんて初めての経験だったし、こういうことは男側が努力しなければいけないと思っていた。
なにより芽衣子さんに会いたい。なんの苦もなかった。
芽衣子さんはホームまで出迎えに来ていた。
降り立った俺に芽衣子さんが抱きついてきた。
背の高い彼女の顎が俺の肩に乗っている。
俺は彼女の頭を撫でた。
あの早退の時もそうだが、芽衣子さんは俺が思っていた以上に積極的で行動派だった。
付き合い始めてから知る相手の意外な一面というものは良いことも悪いこともあるが、芽衣子さんのそれは俺を喜ばせることばかりだった。
さすがに早っ!とは思ったが、遠距離恋愛なんて初めての経験だったし、こういうことは男側が努力しなければいけないと思っていた。
なにより芽衣子さんに会いたい。なんの苦もなかった。
芽衣子さんはホームまで出迎えに来ていた。
降り立った俺に芽衣子さんが抱きついてきた。
背の高い彼女の顎が俺の肩に乗っている。
俺は彼女の頭を撫でた。
あの早退の時もそうだが、芽衣子さんは俺が思っていた以上に積極的で行動派だった。
付き合い始めてから知る相手の意外な一面というものは良いことも悪いこともあるが、芽衣子さんのそれは俺を喜ばせることばかりだった。
125:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/17(木) 05:21:08
楽しすぎたデートはほんの一瞬に感じた。
帰りもまた、彼女はホームまで一緒に来てくれた。
朝から今まで、ずっとふたりは喋り続けていたが、新幹線がホームに入ってくると彼女は黙りこんでしまった。
はぁ、行くか…と、ベンチを立つ俺の手を彼女が放さない。
座ったまま、芽衣子さんがじっと俺を見る。
上目遣いをする女性は確信犯だと思う。
俺は彼女の顔に俺の顔を重ねた。
それからも俺は2週間置きに芽衣子さんに会いに行った。
いつのまにかクリスマスがまた近づいていた。
帰りもまた、彼女はホームまで一緒に来てくれた。
朝から今まで、ずっとふたりは喋り続けていたが、新幹線がホームに入ってくると彼女は黙りこんでしまった。
はぁ、行くか…と、ベンチを立つ俺の手を彼女が放さない。
座ったまま、芽衣子さんがじっと俺を見る。
上目遣いをする女性は確信犯だと思う。
俺は彼女の顔に俺の顔を重ねた。
それからも俺は2週間置きに芽衣子さんに会いに行った。
いつのまにかクリスマスがまた近づいていた。
126:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/17(木) 05:22:25
クリスマス・イブ。
彼女がいない時の俺は
「ヘン!俄かクリスチャンどもめ!!」
と街行くカップルを妬ましく見つめるが、芽衣子さんがいる今は
「なんて素敵な日なんでしょう」
と穏やかな心でいる。
(単純だなぁ)
新幹線の中で苦笑しながら、彼女へのプレゼントが入ったカバンを一撫でした。
彼女がいない時の俺は
「ヘン!俄かクリスチャンどもめ!!」
と街行くカップルを妬ましく見つめるが、芽衣子さんがいる今は
「なんて素敵な日なんでしょう」
と穏やかな心でいる。
(単純だなぁ)
新幹線の中で苦笑しながら、彼女へのプレゼントが入ったカバンを一撫でした。
127:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/17(木) 05:24:05
いつものようにホームまで出迎えにきていた彼女の手をとり、街へと連れ出す。
昼食をとり、映画を観て、お揃いの来年の手帳を買った。
すっかり陽も落ち、街路樹を覆っているイルミネーションがライトアップされた。
抜かりなく予約しておいた店に彼女をエスコート。
前菜が出た時、買っておいたプレゼントを彼女に渡した。
指輪。今思えば恥ずかしいほど定番のクリスマスを演出していたが、舞い上がっていた俺にそんな意識はない。
彼女からのプレゼントはライターだった。
高価なブランド物だ。裏に文字が彫ってあった。
“Do not smoke too much”(吸い過ぎないでね)
「ライターをプレゼントしといてなんだけど…」
恥ずかしそうに俯く彼女。可愛い人だよ、ほんと。
デザートを食べている時、彼女が言った。
「今日は帰らないよね?」
照れたが「うん」と頷いた。
彼女も照れながら微笑んだ。
昼食をとり、映画を観て、お揃いの来年の手帳を買った。
すっかり陽も落ち、街路樹を覆っているイルミネーションがライトアップされた。
抜かりなく予約しておいた店に彼女をエスコート。
前菜が出た時、買っておいたプレゼントを彼女に渡した。
指輪。今思えば恥ずかしいほど定番のクリスマスを演出していたが、舞い上がっていた俺にそんな意識はない。
彼女からのプレゼントはライターだった。
高価なブランド物だ。裏に文字が彫ってあった。
“Do not smoke too much”(吸い過ぎないでね)
「ライターをプレゼントしといてなんだけど…」
恥ずかしそうに俯く彼女。可愛い人だよ、ほんと。
デザートを食べている時、彼女が言った。
「今日は帰らないよね?」
照れたが「うん」と頷いた。
彼女も照れながら微笑んだ。
128:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/17(木) 05:25:16
初めて彼女と朝を迎える。
もちろん緊張しっぱなしだった。
キラキラした並木道をホテルに向かって歩いていた時、彼女が立ち止まり、ベンチに腰掛けた。
もう少しイルミネーションを見てるのもいい。俺も隣に座った。
彼女がじっと俺を見ながら言った。
「あのね、健吾君に聞きたいことがあるの」
「ん?」
「健吾君、好きな人がいるでしょ?」
へっ?
予期しない言葉に俺はうろたえた。
「い、いるよ。芽衣子さん」なんとか取り繕う。
もちろん緊張しっぱなしだった。
キラキラした並木道をホテルに向かって歩いていた時、彼女が立ち止まり、ベンチに腰掛けた。
もう少しイルミネーションを見てるのもいい。俺も隣に座った。
彼女がじっと俺を見ながら言った。
「あのね、健吾君に聞きたいことがあるの」
「ん?」
「健吾君、好きな人がいるでしょ?」
へっ?
予期しない言葉に俺はうろたえた。
「い、いるよ。芽衣子さん」なんとか取り繕う。
129:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/17(木) 05:27:10
しかし俺の一瞬の動揺を彼女は見逃してくれなかった。
「…今の健吾君の顔ではっきりしちゃった…」
何が起きてるんだ、今。彼女は何を言ってるんだ。
しかし更に彼女が言った一言が、俺をより混乱に陥れた。
「あの従姉の人じゃない?健吾君の好きな人」
もう何がなんだか。
俺は彼女の次の言葉を待つしかなかった。
「見送りに行った時感じたの。あの人に対する健吾君の態度が違う気がしたの。
何が、というのはうまく言えないけど。あと、目。あの時あの人を見る健吾君の目。
今、私を見る目と同じだった」
そんな馬鹿な。
あんなちょっとの時間で、芽衣子さんは俺の気持ちがわかったと?
いや、現に当たっているけど、でも、今は!
「…今の健吾君の顔ではっきりしちゃった…」
何が起きてるんだ、今。彼女は何を言ってるんだ。
しかし更に彼女が言った一言が、俺をより混乱に陥れた。
「あの従姉の人じゃない?健吾君の好きな人」
もう何がなんだか。
俺は彼女の次の言葉を待つしかなかった。
「見送りに行った時感じたの。あの人に対する健吾君の態度が違う気がしたの。
何が、というのはうまく言えないけど。あと、目。あの時あの人を見る健吾君の目。
今、私を見る目と同じだった」
そんな馬鹿な。
あんなちょっとの時間で、芽衣子さんは俺の気持ちがわかったと?
いや、現に当たっているけど、でも、今は!
130:1 ◆SemWiFNIUE 2005/11/17(木) 05:28:06
俺は芽衣子さんと付き合うことになった日までのことを正直に話した。
芽衣子さんは黙って聞いてくれた。
冗談じゃない。あれは終わったことなんだ。俺の気持ちはもう…。
俺は懸命になって芽衣子さんに説明した。
なんてこと言うんだ。やめてくれ。たのむよ。
全てぶちまけた俺を見て、芽衣子さんが言った。
「ごめん。今日は帰らせて」
俺は彼女を引き止められなかった。
芽衣子さんは黙って聞いてくれた。
冗談じゃない。あれは終わったことなんだ。俺の気持ちはもう…。
俺は懸命になって芽衣子さんに説明した。
なんてこと言うんだ。やめてくれ。たのむよ。
全てぶちまけた俺を見て、芽衣子さんが言った。
「ごめん。今日は帰らせて」
俺は彼女を引き止められなかった。
136:恋する名無しさん 2005/11/17(木) 12:51:44
やっぱ女性の勘ほど恐いものはないな…
140:1[偽者] ◆SemWiFNIUE 2005/11/17(木) 21:29:56
漏れは1◆さんの偽者です
1◆さん
こんな簡単な言葉をトリに使っちゃ駄目だよ
他スレで試したら簡単に再現できた
もう使わないけど1◆さんもトリ変更したほうがいい
漏れもここ支援したいからあえて忠告させてもらう
荒らすつもりはないので勘弁してくれ
1◆さん
こんな簡単な言葉をトリに使っちゃ駄目だよ
他スレで試したら簡単に再現できた
もう使わないけど1◆さんもトリ変更したほうがいい
漏れもここ支援したいからあえて忠告させてもらう
荒らすつもりはないので勘弁してくれ
141:1 ◆6uSZBGBxi. 2005/11/18(金) 08:24:46
続きです。
>>140
びっくりしました。
トリップはおぼえたてで、私の勉強不足だとは思うのですが、そんなに簡単に中の言葉がわかるものなのでしょうか?
ご忠告どおり新しいトリップにします。
ありがとうございました。
ここを読んでくださっている方々、私は2チャンネルにあまり慣れていません。
一応、書く前に注意事項等を読みましたが、この掲示板の独自のルールや、してはいけないことなどがありましたら、どうか教えてください。
勉強不足で申し訳ありません。
>>140
びっくりしました。
トリップはおぼえたてで、私の勉強不足だとは思うのですが、そんなに簡単に中の言葉がわかるものなのでしょうか?
ご忠告どおり新しいトリップにします。
ありがとうございました。
ここを読んでくださっている方々、私は2チャンネルにあまり慣れていません。
一応、書く前に注意事項等を読みましたが、この掲示板の独自のルールや、してはいけないことなどがありましたら、どうか教えてください。
勉強不足で申し訳ありません。
142:1 ◆6uSZBGBxi. 2005/11/18(金) 08:26:50
家まで送るという俺の申し出は断られた。
突然ひとりぼっちになった俺は、頭の整理がつかないまま、今夜泊まる予定になっていたホテルへと向かった。
「お連れ様は?」フロント係りが憎たらしい。
「…後から来ます」
さっさとキーを受け取り、部屋へ。
広いなぁ、ダブルって。
一ヶ月前、知り合いのコネを使って無理してとったこの部屋も、今は何の意味もない。
だったら泊まらなければよかったのだが、知り合いの顔を潰すわけにはいかなかった。
眼下にはさっきのベンチが見えた。こんなに惨めなクリスマスは初めてだ。
ルームサービスで頼んだワインボトルを空けた時、
フラフラに酔った俺は我慢できなくなって芽衣子さんに電話した。
出ない。
諦めて切った5分後、芽衣子さんからメールがきた。
「まだ冷静になれません。ごめんなさい。明日連絡します」
携帯を投げつけ、俺は寝た。
突然ひとりぼっちになった俺は、頭の整理がつかないまま、今夜泊まる予定になっていたホテルへと向かった。
「お連れ様は?」フロント係りが憎たらしい。
「…後から来ます」
さっさとキーを受け取り、部屋へ。
広いなぁ、ダブルって。
一ヶ月前、知り合いのコネを使って無理してとったこの部屋も、今は何の意味もない。
だったら泊まらなければよかったのだが、知り合いの顔を潰すわけにはいかなかった。
眼下にはさっきのベンチが見えた。こんなに惨めなクリスマスは初めてだ。
ルームサービスで頼んだワインボトルを空けた時、
フラフラに酔った俺は我慢できなくなって芽衣子さんに電話した。
出ない。
諦めて切った5分後、芽衣子さんからメールがきた。
「まだ冷静になれません。ごめんなさい。明日連絡します」
携帯を投げつけ、俺は寝た。
143:1 ◆6uSZBGBxi. 2005/11/18(金) 08:28:08
翌朝、フロント係りの顔を見ないようにしながら清算を済ませ、俺はホテルを後にした。
外は快晴。幸せな夜を過ごしたであろうカップルたちが、楽しげに歩いている。
気が滅入る。本当なら俺も仲間だったのに。
ファーストフードの店に入り、俺は芽衣子さんからの連絡を待った。
俺も芽衣子さんも今日は休みをとっていたから、連絡は必ずくる。
そう信じ、俺は携帯と芽衣子さんからもらったライターを両手に握り締めた。
外は快晴。幸せな夜を過ごしたであろうカップルたちが、楽しげに歩いている。
気が滅入る。本当なら俺も仲間だったのに。
ファーストフードの店に入り、俺は芽衣子さんからの連絡を待った。
俺も芽衣子さんも今日は休みをとっていたから、連絡は必ずくる。
そう信じ、俺は携帯と芽衣子さんからもらったライターを両手に握り締めた。
144:1 ◆6uSZBGBxi. 2005/11/18(金) 08:29:35
一時間後、芽衣子さんからメールがきた。
「電話だと冷静に話せないと思うのでメールで許してください。
昨日は本当にごめんなさい。
健吾君の気持ちを台無しにしてしまったと反省しています。
でもずっと気になっていたんです。
あの従姉さんのこと。
あの日は健吾君の目が何を意味しているのかわかっていませんでした。
でも付き合っていくうちに私を見る健吾君の目があの日と同じ目になっていると感じてきました。
健吾君の目は優しくて、私を大切に想ってくれていることが伝わってきました。
うれしかったです。
でも同時に、私は従姉さんに対して嫉妬するようになりました」
「電話だと冷静に話せないと思うのでメールで許してください。
昨日は本当にごめんなさい。
健吾君の気持ちを台無しにしてしまったと反省しています。
でもずっと気になっていたんです。
あの従姉さんのこと。
あの日は健吾君の目が何を意味しているのかわかっていませんでした。
でも付き合っていくうちに私を見る健吾君の目があの日と同じ目になっていると感じてきました。
健吾君の目は優しくて、私を大切に想ってくれていることが伝わってきました。
うれしかったです。
でも同時に、私は従姉さんに対して嫉妬するようになりました」
145:1 ◆6uSZBGBxi. 2005/11/18(金) 08:31:08
すぐに2つ目のメールがきた。
「私は自分でも嫌になるほど独占欲の強い人間です。
健吾君が100%、私だけを見てくれていると思えなければ安心できないのです。
健吾君は昨日、もう従姉さんに気持ちはないと言っていたけど、私はどうしても疑ってしまいます。
健吾君はあの人とは付き合ったわけじゃないし、何もなかったという言葉も信じているけど、でもだからこそ、まだ未練がありませんか?
今、健吾君があの人を見る目と、私を見る目が同じかどうかはわかりません。
私は健吾君が大好きです。
だから、本当の健吾君の気持ちを教えてください」
「私は自分でも嫌になるほど独占欲の強い人間です。
健吾君が100%、私だけを見てくれていると思えなければ安心できないのです。
健吾君は昨日、もう従姉さんに気持ちはないと言っていたけど、私はどうしても疑ってしまいます。
健吾君はあの人とは付き合ったわけじゃないし、何もなかったという言葉も信じているけど、でもだからこそ、まだ未練がありませんか?
今、健吾君があの人を見る目と、私を見る目が同じかどうかはわかりません。
私は健吾君が大好きです。
だから、本当の健吾君の気持ちを教えてください」
146:1 ◆6uSZBGBxi. 2005/11/18(金) 08:32:26
ため息が出た。何なんだよ一体。
恵子ちゃんを見る目と芽衣子さんを見る目が同じ?
そんなこと俺にはわからない。自覚無い。
ただ恵子ちゃんを見るといつも辛かっただけだ。
でも芽衣子さんを見るといつも暖かい気持ちになれたんだよ?
確かに芽衣子さんとは受身で始まったし、その時の俺の心の中にはまだ恵子ちゃんへの想いが残っていたとは思う。
でも今の俺は君との「これから」ばかりを考えてる。
付き合っていけばそれはもっともっと大きくなって、いつか恵子ちゃんは俺の心からいなくなる。
そのためにも君に側にいてほしい。
それじゃダメなのか?
勝手な言い分なのか?
俺は店を出てひと気の少ない公園に行った。
そして芽衣子さんに電話をしてありのままの気持ちを伝えた。
芽衣子さんは言った。
「少し時間が欲しい」
もう何だかわからなくなった俺は、東京行きの新幹線に飛び乗った。
恵子ちゃんを見る目と芽衣子さんを見る目が同じ?
そんなこと俺にはわからない。自覚無い。
ただ恵子ちゃんを見るといつも辛かっただけだ。
でも芽衣子さんを見るといつも暖かい気持ちになれたんだよ?
確かに芽衣子さんとは受身で始まったし、その時の俺の心の中にはまだ恵子ちゃんへの想いが残っていたとは思う。
でも今の俺は君との「これから」ばかりを考えてる。
付き合っていけばそれはもっともっと大きくなって、いつか恵子ちゃんは俺の心からいなくなる。
そのためにも君に側にいてほしい。
それじゃダメなのか?
勝手な言い分なのか?
俺は店を出てひと気の少ない公園に行った。
そして芽衣子さんに電話をしてありのままの気持ちを伝えた。
芽衣子さんは言った。
「少し時間が欲しい」
もう何だかわからなくなった俺は、東京行きの新幹線に飛び乗った。
147:1 ◆6uSZBGBxi. 2005/11/18(金) 08:34:08
一週間が過ぎた。大晦日。今日は俺の誕生日だ。
俺の仕事は365日、平日と休日の別ない仕事だったが、転勤してまもないということで職場の先輩が気を遣ってくれ、この年末年始はまるまる休みとなっていた。
しかしその休みも今は恨めしい。
この間、俺は芽衣子さんに連絡をしなかった。
彼女からも一切連絡はなかった。
夜も昼も、芽衣子さんに言われたことをひとつひとつ考えてみた。
彼女の言うとおり、恵子ちゃんへの想いが顔に出ていたのだろうか。
感情が顔に現れやすい人間だと、自覚はしていた。
怒れば口がとんがり、嬉しければ目尻が下がりっぱなしになる。
しかしそれがこんな結果を招くとは。
なんだかなぁ。
このまま年越しかよぉ…。
俺の仕事は365日、平日と休日の別ない仕事だったが、転勤してまもないということで職場の先輩が気を遣ってくれ、この年末年始はまるまる休みとなっていた。
しかしその休みも今は恨めしい。
この間、俺は芽衣子さんに連絡をしなかった。
彼女からも一切連絡はなかった。
夜も昼も、芽衣子さんに言われたことをひとつひとつ考えてみた。
彼女の言うとおり、恵子ちゃんへの想いが顔に出ていたのだろうか。
感情が顔に現れやすい人間だと、自覚はしていた。
怒れば口がとんがり、嬉しければ目尻が下がりっぱなしになる。
しかしそれがこんな結果を招くとは。
なんだかなぁ。
このまま年越しかよぉ…。
148:1 ◆6uSZBGBxi. 2005/11/18(金) 08:35:27
そうやって腐っていたら、午後、宅急便が届いた。
芽衣子さんからだった。
中にはマフラーと手紙が入っていた。
一呼吸して手紙を開ける。
「誕生日おめでとう。
編み方を勉強する時間がなかったので、マフラーは買ってきたものです。
でも一生懸命選びました。よかったら使ってね。
大切な日なのに健吾君の横にいられなくて残念です。
健吾君が私に側にいてほしいと言った言葉。
うれしかったけど、私には無理です。
健吾君が忘れようと努力すればするほどきっと私の従姉さんへの嫉妬心は大きくなります。
そして嫌な姿をいっぱい健吾君に見せてしまう。私はそれが怖いのです。
勝手な言い分ですが、健吾君が従姉さんを忘れられる日まで、距離を置いて待っていてはダメですか?
来年は手編みのものをプレゼントしたいです。
芽衣子」
芽衣子さんからだった。
中にはマフラーと手紙が入っていた。
一呼吸して手紙を開ける。
「誕生日おめでとう。
編み方を勉強する時間がなかったので、マフラーは買ってきたものです。
でも一生懸命選びました。よかったら使ってね。
大切な日なのに健吾君の横にいられなくて残念です。
健吾君が私に側にいてほしいと言った言葉。
うれしかったけど、私には無理です。
健吾君が忘れようと努力すればするほどきっと私の従姉さんへの嫉妬心は大きくなります。
そして嫌な姿をいっぱい健吾君に見せてしまう。私はそれが怖いのです。
勝手な言い分ですが、健吾君が従姉さんを忘れられる日まで、距離を置いて待っていてはダメですか?
来年は手編みのものをプレゼントしたいです。
芽衣子」
149:1 ◆6uSZBGBxi. 2005/11/18(金) 08:36:29
読み終えた俺の頭に疑問が湧いた。
芽衣子さんがまだ俺を想ってくれているのはわかった。
独占欲というコンプレックスがあって、嫌な姿を俺に見せたくないという気持ちも理解できる。
過去に何かあったのかな。
そんな姿は見たことなかったから相当抑えていたのだろう。
気づいてやれなかった俺が鈍感だったんだ。
でもね芽衣子さん。
俺が恵子ちゃんのことを完全に忘れたと、誰が、どう判断するの?
君の勘が鋭いことはよくわかった。
俺が口先だけで「忘れた」と言ってもすぐに看破されるだろうことも。
かと言って本当に忘れたとしても、そのことは君に伝わるのだろうか?
君の勘は、それを受け入れてくれるのかい?
2002年も笑顔で終われなかった。
芽衣子さんがまだ俺を想ってくれているのはわかった。
独占欲というコンプレックスがあって、嫌な姿を俺に見せたくないという気持ちも理解できる。
過去に何かあったのかな。
そんな姿は見たことなかったから相当抑えていたのだろう。
気づいてやれなかった俺が鈍感だったんだ。
でもね芽衣子さん。
俺が恵子ちゃんのことを完全に忘れたと、誰が、どう判断するの?
君の勘が鋭いことはよくわかった。
俺が口先だけで「忘れた」と言ってもすぐに看破されるだろうことも。
かと言って本当に忘れたとしても、そのことは君に伝わるのだろうか?
君の勘は、それを受け入れてくれるのかい?
2002年も笑顔で終われなかった。
150:1 ◆6uSZBGBxi. 2005/11/18(金) 08:37:32
年が明けても、相変わらず俺は悶々としていた。
(一生の間に、俺は何回「悶々」とするんだろう)
笑いたくなった。
どうしてよいものかわからなかったから、芽衣子さんへの連絡はずっと出来ないでいた。
この頃の俺は仕事も忙しくて精神的にも参っていた。
追い詰められた心と頭が、芽衣子さんへの不満を生み出す。
忘れようが忘れまいが、今の俺たちには一緒にいることこそ必要なんじゃないの?
芽衣子さんは考えすぎだ!
…自分こそ、いつも理屈で恋愛を考えていたくせに。
(一生の間に、俺は何回「悶々」とするんだろう)
笑いたくなった。
どうしてよいものかわからなかったから、芽衣子さんへの連絡はずっと出来ないでいた。
この頃の俺は仕事も忙しくて精神的にも参っていた。
追い詰められた心と頭が、芽衣子さんへの不満を生み出す。
忘れようが忘れまいが、今の俺たちには一緒にいることこそ必要なんじゃないの?
芽衣子さんは考えすぎだ!
…自分こそ、いつも理屈で恋愛を考えていたくせに。
151:1 ◆6uSZBGBxi. 2005/11/18(金) 08:39:37
その頃、俺は会社の女の子とよく飲みに行っていた。
そのコ・新藤 明日香さんは別の会社から俺の職場に出向していた人で、同じ部署の仕事仲間だった。
仕事も優秀で、サバサバとした性格は付き合いやすく、また住まいも俺と同じ横浜だったので、よく帰りがけに一杯やった。
男女ふたりが飲みに…とは言っても話す内容はいつも仕事のことばかりで色気のある会話は別段無かった。
しかし回数を経るごとに彼女の態度が変わってきた。
俺に気があるような態度、仕草が目立ってきた。
俺も芽衣子さんと膠着状態にあったので、そんな彼女のアプローチを甘受した。
だが決定的な言葉は言わせず、言わずのノラリクラリ。
芽衣子さんの存在も新藤さんには言わなかった。
いい気になっていた。
今思い出すに、実にいやらしいヤツだったと思う。
そのコ・新藤 明日香さんは別の会社から俺の職場に出向していた人で、同じ部署の仕事仲間だった。
仕事も優秀で、サバサバとした性格は付き合いやすく、また住まいも俺と同じ横浜だったので、よく帰りがけに一杯やった。
男女ふたりが飲みに…とは言っても話す内容はいつも仕事のことばかりで色気のある会話は別段無かった。
しかし回数を経るごとに彼女の態度が変わってきた。
俺に気があるような態度、仕草が目立ってきた。
俺も芽衣子さんと膠着状態にあったので、そんな彼女のアプローチを甘受した。
だが決定的な言葉は言わせず、言わずのノラリクラリ。
芽衣子さんの存在も新藤さんには言わなかった。
いい気になっていた。
今思い出すに、実にいやらしいヤツだったと思う。
152:1 ◆6uSZBGBxi. 2005/11/18(金) 08:40:21
2月に入ってまもなく、仕事中、新藤さんが俺に小声で言った。
「来週の金曜日、帰りに食事しません?」
その日はバレンタイン・デー。
「大塚さんに予定がなければですけど…」
俺はOKした。
「来週の金曜日、帰りに食事しません?」
その日はバレンタイン・デー。
「大塚さんに予定がなければですけど…」
俺はOKした。
153:1 ◆6uSZBGBxi. 2005/11/18(金) 08:41:30
バレンタイン・デー当日。
会社から少し離れた喫茶店で待ち合わせした俺と新藤さんは、地元のほうが終電を気にしなくていいからと、横浜に移動した。
「明日はふたりともお休みだから、朝まで飲みましょうね(笑)」
丁度いいウサ晴らしになると、俺も「望むところさ〜」と軽く返した。
彼女のお気に入りだという店に案内された。
店内はカップルだらけ。
ここに来て突然、俺は自分に動揺した。
なにしてんだ俺!?いや、なにしようとしてんだよ、俺!?
乾杯の後、新藤さんがチョコの包みを出しながら言った。
「付き合ってくれますか?」
その言葉を遮るかのように俺は言った。慌てふためいていた。
「ごめん新藤さん、ごめん!
ここまで来ておいて、こんなこと言うのはおかしいし矛盾してるけど、ごめん、俺、付き合っている人、いるんです!ごめんなさい!」
ワッ、と彼女が泣き出した。
会社から少し離れた喫茶店で待ち合わせした俺と新藤さんは、地元のほうが終電を気にしなくていいからと、横浜に移動した。
「明日はふたりともお休みだから、朝まで飲みましょうね(笑)」
丁度いいウサ晴らしになると、俺も「望むところさ〜」と軽く返した。
彼女のお気に入りだという店に案内された。
店内はカップルだらけ。
ここに来て突然、俺は自分に動揺した。
なにしてんだ俺!?いや、なにしようとしてんだよ、俺!?
乾杯の後、新藤さんがチョコの包みを出しながら言った。
「付き合ってくれますか?」
その言葉を遮るかのように俺は言った。慌てふためいていた。
「ごめん新藤さん、ごめん!
ここまで来ておいて、こんなこと言うのはおかしいし矛盾してるけど、ごめん、俺、付き合っている人、いるんです!ごめんなさい!」
ワッ、と彼女が泣き出した。
154:1 ◆6uSZBGBxi. 2005/11/18(金) 08:42:39
もう俺の視線は彼女に釘付けで、周囲の視線は感じたけれど、それを恥ずかしがる余裕など全く無かった。
彼女は言葉もなく泣き続ける。
自分のしたことに居た堪れなかった。
ようやく彼女が泣き終えた顔を上げた。
俺はひたすら謝った。ごめんと言うばかりで他の言葉は浮かばない。
彼女が言った。
「いいんです、いいんです…言ってくれてよかったです。ごめんなさい」
謝るのは俺のほうです。本当にごめんなさい!
「大塚さんの言葉だけに泣いてしまったんじゃないんです… 最近別れた彼氏のこと、思い出して…」
彼女は言葉もなく泣き続ける。
自分のしたことに居た堪れなかった。
ようやく彼女が泣き終えた顔を上げた。
俺はひたすら謝った。ごめんと言うばかりで他の言葉は浮かばない。
彼女が言った。
「いいんです、いいんです…言ってくれてよかったです。ごめんなさい」
謝るのは俺のほうです。本当にごめんなさい!
「大塚さんの言葉だけに泣いてしまったんじゃないんです… 最近別れた彼氏のこと、思い出して…」
155:1 ◆6uSZBGBxi. 2005/11/18(金) 08:44:00
彼女がその彼氏のことを話し始めた。
俺は黙ってその話を聞いた。
聞くことで俺のしたことが少しでも償えるなら…そんな身勝手な気持ちだった。
その彼氏とは去年の11月に別れたという。
理由は彼氏の浮気。
というよりも、新藤さんと付き合い始めた当初から、同時進行で別の女性がいたらしい。
結婚を誓い、双方の親にも挨拶を済ませた頃、それが発覚したそうだ。
責める彼女に対して、彼氏は開き直るばかりか、暴力まで振るったという。
踏ん切りをつけて彼氏と別れ、気持ちはボロボロになって何もかも嫌になった。
もう会社も辞めてしまおうかと思った頃、俺が転勤してきた。
いつも飄々としていて、明るく自分に接してくれる俺の姿に、彼女は救われたという。
責められるどころか、そんな風に俺のことを話す彼女に、ますます申し訳なく思った。
俺は黙ってその話を聞いた。
聞くことで俺のしたことが少しでも償えるなら…そんな身勝手な気持ちだった。
その彼氏とは去年の11月に別れたという。
理由は彼氏の浮気。
というよりも、新藤さんと付き合い始めた当初から、同時進行で別の女性がいたらしい。
結婚を誓い、双方の親にも挨拶を済ませた頃、それが発覚したそうだ。
責める彼女に対して、彼氏は開き直るばかりか、暴力まで振るったという。
踏ん切りをつけて彼氏と別れ、気持ちはボロボロになって何もかも嫌になった。
もう会社も辞めてしまおうかと思った頃、俺が転勤してきた。
いつも飄々としていて、明るく自分に接してくれる俺の姿に、彼女は救われたという。
責められるどころか、そんな風に俺のことを話す彼女に、ますます申し訳なく思った。
156:1 ◆6uSZBGBxi. 2005/11/18(金) 08:45:19
その後も彼女の話を聞き続けた。
話しながら彼女は杯を重ね、店が閉店時間を迎える頃には、彼女はヘベレケになっていた。
俺の酒量もとっくにリミットを越えていたが、とてもじゃないが酔えなかった。
酔い潰れた彼女を引きずるようにして店を出、タクシーを拾う。
彼女をタクシーに押し込み、自分は別のタクシーをと思ったが、いくらなんでもそれは酷いと思い直し、俺も一緒に乗り込んだ。
正体をなくした彼女から住所を聞き出すのは骨が折れたが、それでもなんとか彼女のマンションまでたどり着くことが出来た。
しかし揺さぶったりホッペを叩いても彼女は起きない。
タクシーの運転手が苛立った声で言う。
「一緒に降りてくれませんか?彼氏でしょう?」
口論する気力も無かったので、彼女を抱えて降りた。
話しながら彼女は杯を重ね、店が閉店時間を迎える頃には、彼女はヘベレケになっていた。
俺の酒量もとっくにリミットを越えていたが、とてもじゃないが酔えなかった。
酔い潰れた彼女を引きずるようにして店を出、タクシーを拾う。
彼女をタクシーに押し込み、自分は別のタクシーをと思ったが、いくらなんでもそれは酷いと思い直し、俺も一緒に乗り込んだ。
正体をなくした彼女から住所を聞き出すのは骨が折れたが、それでもなんとか彼女のマンションまでたどり着くことが出来た。
しかし揺さぶったりホッペを叩いても彼女は起きない。
タクシーの運転手が苛立った声で言う。
「一緒に降りてくれませんか?彼氏でしょう?」
口論する気力も無かったので、彼女を抱えて降りた。
157:1 ◆6uSZBGBxi. 2005/11/18(金) 08:46:49
酔っ払いは重い。
俺は彼女を背負い、ひぃひぃ言いながらドアの前まで歩いた。
と、彼女が目を開けた。
「よかった。もう大丈夫だね?」
「はい。すみませんでした」
「じゃ、降ろすよ」
だが彼女は降りようとしない。
「どした?まだ立てないかい?」
「大塚さん」
「ん?」
「今日は一緒にいて」
耳元で囁かれたその言葉にクラクラとした。
俺は泊まった。
俺は彼女を背負い、ひぃひぃ言いながらドアの前まで歩いた。
と、彼女が目を開けた。
「よかった。もう大丈夫だね?」
「はい。すみませんでした」
「じゃ、降ろすよ」
だが彼女は降りようとしない。
「どした?まだ立てないかい?」
「大塚さん」
「ん?」
「今日は一緒にいて」
耳元で囁かれたその言葉にクラクラとした。
俺は泊まった。
・次回記事更新後、リンクを貼りますので今しばらくお待ち下さいm(_ _"m)